西山新座内科眼科クリニック[内科・循環器科・小児科・眼科]

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院長コラム 内科のはなし内科のはなし

ポリファーマシーについて

最近ポリファーマシーという言葉を聞くことが多くなりました。ポリ(多くの)+ファーマー(調剤)の造語で、多種類(一般には7種類以上)の薬剤を服用することにより薬剤の副作用が出やすくなる、飲み間違えが多くなる、飲み残しが多くなる問題のことをいい、とくに高齢者で問題になっています。患者さんの中には医師が利益をあげるため必要以上の薬を処方しているのではと思っている方もいるでしょうが、今の制度では処方の数が多くなると処方箋料はさがるようになっており利益は少なくなります。

なぜ薬の種類が多くなるか考えますと高齢者の方は、高血圧症、糖尿病、高脂血症、慢性胃炎、骨粗鬆症など多くの病気を持っており、それぞれに対応しようとすると7種類どころか10種類以上も必要となることもあります。

また、高齢の方はふらつく、だるい、食欲がない、寝られない、便秘するなどいろんな訴えがあり、それぞれに対応しているとどんどん薬の種類が増えてしまいます。これを避けるのはどうすればよいか考えるとガイドライン通りに対応するのではなく、医師も患者もほどほどのところで満足する、症状に応じて出した薬はよくなればやめる、よくならないとき・効果がないときも早めにやめるように常に薬の内容をチェックすることが大切と思います。

ポリファーマシ―は真面目な医師、患者に親切な医師が陥るのではないかと思います。

週刊誌の薬害報道について

週刊誌で薬の話題がとりあげられています。

”この薬はのんではいけない。効果よりも副作用が大きい。薬をやめたら元気になった。”

という内容です。高血圧症や高脂血症、糖尿病など生活習慣病の薬、その中でも広く使われている薬の名前がのっています。患者さんの中には不安になって聞いてくる方もいます。

そのときは私は次のように話しています。

”どんな薬にも副作用はあります。しかしのみ始めて半年以上してから副作用が出ることは、まずありません。効果については血圧を下げる、コレステロールを下げる、血糖を下げるという効果はあります。しかし、血圧が下がり、コレステロールが下がり、血糖が下がると脳卒中や、心筋梗塞にならないかというとそうとは言えません。集団で比較すると病気を発症する割合は低くなりますが、その個人が将来どうなるかはわかりません。結局のむかどうかは、その人の考えによります。ただ重要なのは脳卒中や心臓病は前兆なく突然起こります。予知することは困難です。また、一度かかると風邪や胃腸炎と違って、元の体にはもどりません。とくに脳卒中は目に見える後遺症が残ってしまいます。”

以上のことを説明してから患者さんの希望を聞いて、投薬をするかどうか決めるようにしています。

薬の効果について

薬を飲んで自覚症状がよくなり、検査結果が改善すると、この薬は効いたと考えます。

しかし、本当にそうでしょうか。ちょうど治る時期にきていたのかもしれません。薬を飲んだという気持ちで効いた気になっているのかもしれません。これらの因子を除いて薬の効果を評価するのには2重盲検法(ダブルブライド法)という方法を用います。これは医師も患者もどちらが実薬か偽薬(プラシーボ)かわからなくして投与して効果をみるものです。一般に偽薬でも30%くらいは効果がみられます(プラシーボ効果)。実薬の効果は60-70%くらいのものです。病は気からと言われるように、薬も効くと信じて飲むと効果が出ます。

健康食品では飲んで良くなったので効果があると宣伝していますが、ことはそう簡単ではないということを知ってほしいものです。

薬の常識と非常識

内科では治療に薬を使います。この薬に関係して間違った考えや勘違いをしている人が多くいます。

1.薬は長く続けていると副作用が出てるのではと心配して勝手に中断する人がいます。薬の副作用は飲み始めて数ヶ月、ほとんどは6ヶ月以内に出ます。この間は症状の変化に注意して、採血などの検査を行い慎重に経過をみます。

2.薬は量が多い多い方が強く副作用も出やすいと思っている人がいます。1錠1mgの薬を別の1錠10mgの薬にかえると薬が強くなった、副作用が心配だという人がいます。薬にはそれぞれ中心容量というものがあり、ある薬はそれが1mgであり、別の薬は10mgということで容量だけで強い弱いとはいえません。

3.薬の効果が不十分なとき、もっと効果のある薬に変更しようとすると、効果の強い薬は副作用が多いと思っている人がいて、弱めの薬でいいです、このままにして下さい、と言われることがあります。効果の強弱と副作用の多寡とは関係ありません。もちろん薬をかえたときは慎重に効果、副作用をみる必要はあります。

4.薬の効果には個人差があります。ある人には効いた薬が他の人には全然効果がないということがあります。薬の効果には個人差があり、万人に効く薬はありません。

5.高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は自覚症状がないので薬をのみ忘れることがあるのはやむをえないことと思います。このとき正直にのんでいないといってくれるといいのですが、のんでいるという人がいます。医師は効果が不十分と考え、薬の量や種類を増やします。効果が不十分といわれ急にきちんとのむようになると薬が効きすぎて重大なことになりかねません。とくに糖尿病や血液をサラサラにする薬では低血糖や出血など命にかかわることもあります。疑問や不安があるときには遠慮せず医師に聞き、隠しごとをしないようにして下さい。健康食品やサプリメントをのんでいるときも医師に伝えるようにして下さい。中には悪影響を及ぼすものもあります。健康食品、サプリメントの中には血圧を下げる、コレステロールを下げる、血糖を下げるといった効果をうたうものもありますが決して薬にとって変わるほどの効果はありませんのでご注意ください。

インフルエンザの診断と治療について

これから寒くなるとインフルエンザが流行します。インフルエンザの診断と治療は2000年に迅速検査キットが出て、2001年にインフルエンザ治療薬が発売されてから大きく進歩しました。それまでは症状からインフルエンザと診断し、治療は安静と対症療法だけでした。1週間近く高熱が続きました。

現在はインフルエンザが疑われれば迅速検査を行い、陽性であればインフルエンザ治療薬を投与するという非常にわかりやすいものになっています。しかし、検査はインフルエンザにかかった全員が陽性になるものではありません。発熱した当日(とくに12時間くらいまで)は陰性になる率が高く、それ以上経過しても陰性のことはあります。迅速検査が陽性であればインフルエンザに間違いありませんが、陰性の場合はインフルエンザを否定できません。陰性でも家族や友人、同僚にインフルエンザ患者がいる場合はインフルエンザを考え治療します。検査だけに頼らず総合的に判断して治療することが大切です。

治療に関しても全員にインフルエンザ治療薬を投与するものではありません。薬は発症して48時間以内に投与することになっており、それ以上経過しているときは効果は少ないといわれています。診断時微熱で本人も元気なときは薬は投与せず経過をみることもあります。このように総合的に考えて、診断・治療することが大切です。

なお、予防接種していてもインフルエンザにかかることはありますのでご注意ください。

風邪の診断はむずかしい

寒くなってきました。これからの季節はカゼの患者さんが多くなります。

カゼは内科では最もありふれた病気のひとつです。カゼの治療もできないとやぶ医者※と言われます。

患者さんも自分で「カゼをひきました。よく効く薬をください」とやってきます。しかし、カゼの中に重大な病気がまぎれこんでいることがあり、医師は十分注意して診断、治療する必要があります。

普通カゼとは上気道のウイルス感染をいいます。すなわち、鼻水、のどの痛み、咳痰があり、ときに37度台の熱があり、治療しなくても1週間くらいでよくなるものです。したがって熱だけ、咳だけ、頭痛だけといった場合や、1週間以上しても症状が改善しないときは、カゼ以外の病気も考える必要があります。とくに頭痛や倦怠感といった自覚症状のときは、それがどの程度か評価するのが難しく苦労します。

患者さんには我慢強い人、敏感な人がいますので、話だけでどれだけ重要な症状か理解するのに苦労します。かかりつけの方であれば、その人の性格がある程度わかっているのですが、はじめて来院された方は特に難しく、慎重に対応する必要があります。

いつものカゼとはちょっと違うなと思われる時や、熱だけ、咳だけ、頭痛だけといった時は、病院にかかるようにしましょう。

※竹藪は少しの風でもざわざわと騒ぐことから、ちょっと風邪を引いただけでも大騒ぎする医者のこと。語源は諸説あります。

生活習慣病と食事療法

高脂血症、高血圧、糖尿病は不摂生な生活習慣が原因となって発症することを強調するために、生活習慣病という名前が1997年に厚労省によりつけられました。しかし、それらの病気がその人の体質とか加齢により発症することはご存知の通りで、以前は成人病と言われていました。

生活習慣病の治療はまずその生活習慣を是正することが第一で、それでも改善しないときに薬物治療を行うことが強調されています。これは正しいことですが、生活習慣を変えることは実際には大変なことです。食事を制限するのは人間の本能である食欲をおさえるということですから、実行するのは難しいことです。それよりも薬を1日1回か2回飲むほうがよほど楽です。ここで各疾患と食事療法との関係をみてみましょう。

高脂血症、中でも高コレステロール血症の治療薬はほとんど感性されたものとなっています。コレステロールの摂取制限をしなくても薬を飲めば30%以上コレステロールは低下します。これは体の中のコレステロールは食事由来は20%で、80%は体の中、主に肝臓でつくられるからです。コレステロールの薬はこの肝臓での産生※を抑制します。

高血圧症では塩分の制限が強調されています。しかし味覚は子供のころに成立しているので多くの人は塩分を減らすともうひとつものたりなく感じるのではないでしょうか。高血圧症の治療薬も多くの新しい薬が作られ、血圧を下げることはそれほど難しいことではなくなっています。降圧利尿剤という薬は体の中の余分の塩分を排泄して血圧を下げ、食塩制限と似た効果が得られます。

これに対して糖尿病治療薬は最近新しい薬が多くでていますが、薬だけで糖尿病を良好にコントロールするのは難しいのが現実です。食事制限、カロリー制限が必須です。まだ糖尿病の薬は完成されていないということです。食事療法は生涯続ける必要があります。一度血糖のコントロールが良くなったからといって手を緩めると元に戻ってしまいます。極端なことは行わず、長く続けられる食事療法、運動療法を行い、薬物療法の手もかりて、適正な血糖値を保つことが大切です。

※産生(さんせい):細胞で物質が合成・生成されること。

動悸の診断は難しい

動悸を訴えて来院される方は多くいます。しかし、その診断は容易ではありません。というのは来院された時は動悸はなくなっている方が多く、話を聞いて診断をつけることになるからです。動悸を感じるのは不整脈があることが多く、すなわち、脈が乱れる、脈が速くなることが多いのですが、中には心臓に意識が集中して普通の脈で動悸を感じる人もいます。

正確な診断には心電図を記録することが必要です。普通の心電図で不整脈をつかまえることは難しく、ホルター心電図という24時間記録できる心電図をつけます。これでも週に1回、月に数回しか生じない動悸の診断は困難です。不整脈には色々な種類がありますが、心臓に病気のない方の不整脈の大部分は良性で治療の必要のないものです。動悸を感じたらまず心臓に病気がないか診てもらいましょう。

内科の病気と眼

内科の病気と眼は案外関係が深いものです。

特定健診に眼底検査があるのは、眼底はヒトの体の中で直接血管を見ることの出来る場所であり、動脈硬化や出血の有無を観察します。高血圧症や高脂血症で治療を受けているときは眼底も一度は診てもらうようにしてください。

しかし、なんといっても関係が深いのは糖尿病です。糖尿病の合併症として糖尿病性網膜症があり、成人の失明原因の第2位となっています。糖尿病になったからすぐに網膜症が出るものではありませんが何年も放置していると網膜症が生じます。網膜症は眼底の中心の黄斑部に病変が及ばないと自覚症状は出にくく、一度視力が低下してしまうと糖尿病の治療を厳格にやって血糖が良くなっても視力は改善しません。

糖尿病の疑いのある方は、一度は眼底のチェックを受けることが大切です。

コレステロールと食事

動脈硬化の原因のひとつの高コレステロールの治療に食事療法が大切なことはいうまでもありません。しかし、食事制限してもコレステロールが高い人はいます。反対にコレステロールを多く取ってもコレステロールが正常の人もいます。これはヒトのコレステロールの7~8割は体の中(主に肝臓)で造られ、食事由来は2~3割と少ないためです。もともと体の中で造られるコレステロールが少ない人は、コレステロールを多目にとっても高くなりません。逆に造られるのが多い人は制限しても高くなります。

コレステロールは体の細胞膜やホルモンの原料になる大切なものです。人類が常に飢餓にさらされていた時代には体の中でコレステロールを多く造れる体質は生存競争に有利でした。しかし、今の飽食の時代には心筋梗塞や脳卒中を生じやすい不利な立場になってしまいました。

コレステロールの治療は26年前にスタチンという肝臓でのコレステロール合成を抑制する物質ができて(日本人の発明です)、今では治療しやすい病気になりました。食事に注意してもコレステロールが高い人は薬でしっかり下げておくことが大切です。

心筋梗塞を予測するのは難しい

心筋梗塞は死因の第2位です。したがって胸が苦しいと心筋梗塞の前兆ではないかと心配して来院される方は多くいらっしゃいます。しかし、これは難しい問題です。ひとつは来院されたときは症状はなくなっているので、検査して異常がないから心配ないとは言えません。

もうひとつは心筋梗塞は心臓の血管がつまって生じるものですが、心臓の血管は徐々に狭くなってつまるのではなく、血管の動脈硬化の場所(粥腫)が急にやぶれてつまってしまうということがわかってきました。多くの方は前兆なく心筋梗塞をおこします。したがって動脈硬化を生じやすくする因子(危険因子)をなくすことが大切です。

高血圧症、高脂血症、糖尿病、タバコが4大危険因子といわれています。これらの病気を治療しておくことが、心臓病の予防になります。

冬と血圧

インフルエンザの流行は峠をこえて下火になりましたが、まだまだ寒い日が続いています。

脳卒中や心筋梗塞など循環器系の病気は冬に多い傾向にあります。これは寒くなると血圧が上昇することと関係があると思われます。

冬になると血圧が高くなる方が多く、血圧の薬の量や種類を多くするなど調整が必要な場合があります。高血圧には自覚症状がありませんので、冬はとくに自宅血圧をこまめにチェックすることが大切です。